院長寄稿記事

胃食道逆流症 -Gastroesophageal Reflux Disease : GERD-

最近の食生活の欧米化および人口の高齢化等により、胸やけや呑酸(どんさん:酸の口腔内への逆流による酸味・苦味)を伴う逆流性食道炎が増加しています。
最近では、逆流性食道炎は酸性の胃の内容物が食道内へ逆流することで引き起こされる病態の総称である胃食道逆流症 (GERD)の一部分症とされています。

発症メカニズム

食道と胃の接合部(噴門)は、安静時には一定の力で閉鎖し、酸性の胃内容物が食道に逆流するのを防いでいます。
噴門は、胃の内圧が高まったときに開放状態になります。この時、空気が出てくると「ゲップ」となり、胃液が出てくると逆流現象となります。特に食道裂孔ヘルニアが発症した場合は、噴門での逆流防止が十分に機能できない状態となります。
食道炎は、酸性胃液が食道内に過剰に逆流することで起こります。噴門での逆流防止の力が低下したとき、嚥下(えんげ:食物を飲み下すこと)と関係なく噴門が開き、腹部に強い圧力がかかり逆流しやすくなります。特に前屈みの姿勢や背骨の変形で腰が曲がると、その傾向が強くなります。

症状と内視鏡検査からの診断

胃食道逆流症(GERD)には以下のような症状があります。

  • 胸が焼け付くような感じ
  • 酸っぱいものがあがってくる
  • 食べるとものがつかえる感じ
  • 食後、胸のあたりがジワッと痛む
  • 横になるとムカムカが酷くなる
  • 胸やけなどで夜中に目が覚める
  • なんとも言えず気持ち悪い
  • 声がかれる
  • 咳がでる 等

以上の症状があれば胃食道逆流症が強く疑われます。
しかし確認検査として内視鏡検査が必要となります。胃食道逆流炎の重症度や裂孔ヘルニアの状態および食道がんの合併などの確認をすることができます。
バリウム検査は、食道粘膜の微細な変化を確認できませんが、胃液の逆流は確認できます。

〈治療法〉

胃食道逆流症の基本的な治療は、食道内に酸が逆流するのを防ぐことです。また、胃酸が食道を刺激しないように酸分泌を抑制する治療も行います。

食道裂孔ヘルニアとは・・・食道と胃は、横隔膜の位置で区切られています。しかし、胃の上部がこの位置より上にある状態を「食道裂孔ヘルニア」といいます。

薬物療法
  1. 酸分泌抑制剤としてプロトンポンプ阻害剤が最も効果的とされています。
  2. H2受容体拮抗薬はほぼ半数の患者さんに有効ですが、プロトンポンプ阻害剤ほど効果的ではありません。
  3. 消化管運動賦活薬を用いることで胃の逆流を少なくします。
生活習慣の改善
  1. 大食をさけ、嗜好品を控えめにします。食事は一度に食べ過ぎず、ゆっくりと摂るよう心掛けます。急いで食べると空気も一緒に飲み込んでしまい、胃をふくらませるためにゲップが出やすくなります。暴飲暴食は胃酸の逆流の原因となります。
  2. お酒は噴門をゆるめます。特に炭酸を含むビールやシャンパンは、その傾向が強くなります。
  3. 脂肪の多い食事は、胃がもたれて逆流を起こしやすく、嗜好品等は胸やけを起こしやすくなります。
  4. 胸やけを起こしやすい生活動作の改善をします。食後直ぐに横にならない、ベルトやコルセットを締め付けない、肥満や便秘にならないようにするなど気をつけます。妊娠中は胃が圧迫されるので、注意が必要です。
  5. 就寝時胸やけがする場合は、上体を高くする、或いは左を下にして寝ます。
    以上のような生活習慣の改善および薬物療法においても症状の改善が認められなければ、外科的治療が必要となります。今後は、高齢者だけでなく、若者のヘリコバクター・ピロリ菌感染者の低下、および潰瘍に伴うピロリ菌除菌により酸分泌が盛んになり、逆流性食道炎になる人が増える可能性があります。
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